第28回日本私立医科大学理学療法学会
トップページ 学会長挨拶 開催概要 演題募集 プログラム 講演 単位認定 協賛・援助および組織図
講演

学会長講演 (30日 13:15~14:15)

テーマ: 「理学療法の効果指標を再考する」

松永 篤彦 北里大学医療衛生学部

特別講演 (31日 10:00~11:30)

テーマ: 「EBPT (Evidence-based Physical Therapy)を実践するための
研究手法について」

佐藤 敏彦 北里大学医学部附属臨床研究センター 教授

学会長講演 (30日 13:15~14:15)

テーマ: 「理学療法の効果指標を再考する」

松永 篤彦 北里大学医療衛生学部

 病気の末期に在る患者など特別な場合を除いて,多くの理学療法士は理学療法施行後の経過から,自分が施行した治療の効果を感じているのではないだろうか.もちろん,治療者側の勝手な思い込みがあることは認めるが,自分が施行している治療内容が対象者に,今,どのような影響(効果)を与えているのかを,診て,聴いてそして感じながら進めていない理学療法士の治療はおよそ期待できない,と思う.つまり,我々理学療法士が提供する治療内容の多くは,急性に変化した症状,損傷部位や病巣そのものに立ち向かうものではなく,病状や損傷部分が少しでも回復状況に向かっている状態から治療を開始し,回復段階にそって,効果が期待できる部分に,効果が期待できる内容を提示しながら進めているはずである.現に,疾患に適用されるクリティカルパスは,計画どおりに施行できていること自体,治療が効果的に進んでいることを意味している.また,関節の可動域が改善しなければ対症的に痛みの緩和を図ったり,さらに痛みの軽減が得られなくても不安を和らげるといった心理的な作用に目を向けたり,歩行が自立しなくても10mでも1歩でも歩くことができればといったように,治療目的と目標(期待する効果)を患者の病態や症状に合わせて変更できることも,効果を感じながらアプローチできる所以である.患者の病態や症状に合わせて期待する効果を変更することはリハビリテーション医療において重要な臨床思考であるが,回復レベルを予測することが困難な患者を担当するこが多いだけに,理学療法士の特権であるようにも思える.
 さて,このように臨床場面では治療効果を感じているのに,あるリサーチクエスチョンに基づいて文献のレビューを行うと,疾患に対する理学療法効果のエビデンス(客観的根拠)が確認できないのはなぜだろうか.もちろん,一言でいえば,今までにエビデンスレベルの高い研究がおこなわれてこなかったせいである.いや,それとも本当に効果的な治療法が施行されていなかったのだろうか.私は,理学療法効果を判定する際に,病態や症状の変化にそって期待する効果を変更できる理学療法士の特権を十分に活かせていないことが一つの原因でなないかと思う.同じ疾患群であっても,病期に則した,患者の特性(高齢,性別,運動能力別など)に則した効果指標が活用されていないこと,さらには治療の効果が最も鋭敏に反映できる時期にタイミング良く評価されていないのではないかと思う.例えば,通院可能な維持血液透析患者に運動療法を施行しても日常生活動作(ADL)に対する効果はあまり期待できないが,ADLにおける困難感(楽に行えるか否か)の指標で評価すると,運動機能の改善に対して困難感は鋭敏に反応する.つまり,日ごろ,臨床で感じている効果を捉えるための指標を再度考えてみる必要があると思う.本講演では内部障害者に限定したデータの提示になるかもしれないが,会員の皆様が理学療法の効果指標を再考する機会になれば幸いである.

  ページの先頭へ

特別講演 (31日 10:00~11:30)

テーマ: 「EBPT (Evidence-based Physical Therapy)を実践するための研究手法について」

佐藤 敏彦 北里大学医学部附属臨床研究センター 教授

 EBM (Evidence-based Medicine)は、診療の場の意思決定を最新かつ最良のエビデンス(客観的根拠)を用いて行うことにより医師と患者が納得した診療を選択することができ、また、社会全体にとっても効率良く、質にバラツキのない医療を提供することを可能とする。そのプロセスは、1)問題の明確化、2)情報収集、3)情報の評価=批判的吟味、4)患者への適用、5)適用結果の評価、というものであり、従って、EBMをその目的に沿って実施するためには、「最新かつ最良のエビデンス」を常に創り出していく必要がある。広い意味ではEBMに含まれるものであるが、EBMの概念は医療の様々な分野に拡大するにつれ,看護学分野においてはEvidence-based Nursing(EBN),公衆衛生学分野においてはEvidence-based Public Health(EBPH)、そして理学療法学分野においてはEvidence-based Physical Therapy(EBPT)というように細分化された個々の名称が生まれてきた。今回のテーマは「EBPTを実践するための、、、」ということはあるが、基本的には同様であるので、以下、エビデンスを創り出す研究方法についてEBM一般を対象として話を進めたい。
 エビデンスは「ヒト集団」から導かれたもの、すなわち疫学研究から得られたものと考えてよいが、その「質」=エビデンスとしての強さ、にはさまざまなレベルがあると考えられる。これをエビデンスレベルと呼ぶが、意思決定はこのエビデンスレベルにより影響されるのでエビデンスレベルを認識することは重要である。一般にエビデンスレベルは、それが得られた研究デザインにより分けられている。即ち、レベルの高い順から、複数のランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタアナリシス、次いで、介入研究であるランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、そして観察研究であるコホート研究、症例対照研究、ケースシリーズ研究、そして最後に疫学研究でない専門家の意見となる。このレベルはバイアス(系統誤差=真実を系統的に歪める要因)が入り込む余地がその研究デザインにどれだけ含まれるかによって決められている。つまり、ランダム化比較試験は観察研究よりもバイアスが生じる余地が少ない研究デザインであるということである。 エビデンスレベルの高い研究デザインを求めるのはごく当然のことであるが、残念ながらそのような研究をするには、その実施により多くの制約がかかることが多い。前向きの研究は後ろ向き研究に比べ、対象とする人数が多くなければならないし、アウトカム(評価すべき結果)が出るまでに時間もかかる。また、介入研究は観察研究に比べ、より倫理的配慮を払わなければならない、等。実行可能性を考え、やれる範囲で最良のエビデンスを創り出す研究デザインを立てることが重要である。まずはエビデンスがなくては、EBM (EBPH)は始まらない。より多くの関係者がエビデンスを「利用する」とともに「創る」側にも属することがEBMを「頭でっかち」にしないために重要である。

  ページの先頭へ
 
開催会場
 
北里大学相模原キャンパス
〒252-0373
神奈川県相模原市南区北里
1-15-1
宿泊案内
会場アクセス
周辺案内
 
学会事務局
北里大学医療衛生学部
リハビリテーション学科
理学療法学専攻内
第28回 日本私立医科大学
理学療法学会 事務局
E-mail:
jpmcpt28-gakkai@umin.ac.jp